元親の愚痴

 よう家康! 元気にしてたか? そうか、そいつは何よりだ。
 俺の方も勿論よ! と言いたいところだがそうも言えねぇんだ……。
 確かに普段の俺だと、なんてことねぇよ!って誤魔化しちまうんだが、 さすがにちょっと堪えてこなぁ。
 いや、気にすんな。おめぇも忙しいんだろ? 悪かったな、変に引き止めちまってよ!
 ……うーん、でもなぁ……。
 ってそんなわけねぇだろ! お前と俺は親友だ! 隠し事なんてするわけねぇ!
 ただ、隠し事ってわけじゃねぇんだけどよ……。その、石田と大谷のことでちょっとよ……。
 だからお前には愚痴りづれぇと、俺なりに考えてだなぁ!
 なーにが、お前らしくないだ! 俺はだな!
 あーもうわかった! じゃあそこ座れ! こうなったらしっかり聞いてもらうから、後悔すんなよ!?
 そうだな、どこから話したもんか……。
 黒田の野郎が、関ヶ原に踏み入ってきて、おめぇと石田の両方をぶっ飛ばして有耶無耶にさせただろ? その後、大谷が、なんつーかその、ちょっと気味が悪いというか気持ちが悪いというか。
 確かにそれはいつものことなんだけどよ、それとはまた違って…… 何かあるとすぐ、生きてるって素晴らしいとか言うんだよアイツ。
 嘘じゃねぇ、嘘じゃねぇんだって! こないだもよ、石田と俺で一勝負してたんだが、そこに杖つきながら大谷が通りかかったんだよ。
 したらよぉ、俺らをっつーか、あれは石田だけだな、とにかく見てるだけで「生きるとは素晴らしいことよ」とかしみじみ言うんだぜ?
 それ聞いた瞬間俺ぁサブイボがぞわぁっとして、もうそれ以上石田とやりあおうなんて気力なくなっちまってよ……。
 でもよ、そのあとも更にひでぇんだ。 石田も石田でよ、大谷に気づいたら俺との勝負ほっぽり出しちまうしよ。
 大谷んとこに駆け寄って、っていうかあれは瞬歩の域だったな。気づいたら大谷の肩を抱きかかえててよ。あの速さはいったい何なんだっての……化けもんか。 いや、俺のは錨で波に乗ってるだけだから化けもんじゃねぇよ。家康も、もうちっと速く走れたらいいのによ!
 んで、石田は大谷に向かってこう言ったんだよ。
 「何をしている刑部! 休んでいろと言っただろう! 貴様にもしものことがあったら、私はこの先どう過ごせばいい?」だぜ?
 おいやめろ、そんな顔すんな。直接聞いた俺の方が泣きたかったんだから。
 もういいとか言うなよ! もうちょっと愚痴らせろよ!
 その後、大谷と石田があーだこーだ言い始めて、結局はあれだぜ? 二人で共に生きようとかだぜ?
 それをだな、俺は毎日聞かされてんだ! 毎日、毎日毎日毎日毎日! 朝から晩までだぞ!? 気が狂いそうになんだよ俺は!!
 早く俺の海に帰りてぇ。もしくは俺を連れだしてくれ家康。頼む、この通りだ! もうあいつらの雰囲気についていけねぇんだよ……。
 情けねぇ、西海の鬼と呼ばれた俺がこのザマとはな……。 そうか! 本当だな!? 二言はねぇな!? 本当に連れだしてくれるんだな!? ありがてぇ!
 すまねぇ家康、俺はお前を疑っていたっていうのに、こんなにも俺に良くしてくれて……うっぅぅうううう。 馬鹿野郎、俺が泣いたりなんかしねぇよ!
 そうと決まれば行くぞ家康! 挨拶? そんなもんいらねぇよ……あいつら、きっと俺がいなくなったことにも気づきやしないだろ……。とにかく、こんなとことは早々におさらばだ!
Written by BAN 0210 12

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