ルルーシュの朝は一杯のジュースから始まる。日によってオレンジジュースだったり野菜ジュースだったり、アップルジュースだったりする。何を選ぶかはそのときの気分次第なのだが、オレンジジュース一択を心から望むものがいた。他ならない、オレンジジュースの精ジェレミアだ。
ルルーシュが愛飲しているブランド・ぶりたにあ印のオレンジジュースは濃縮還元・健康を売りにしている。味も、従来のものと比べドロッとしておらず飲み口爽やかと専らの評判である。比例してお値段もなかなかのものだが、食にこだわる男ルルーシュには些末なものだった。
そんなわけでジェレミアは今か今かと手に取られるのを待っているのである。

「最後に扉が開けられてから6時間が経過した。そろそろルルーシュ様が目覚められるに違いない! 今日こそ選ばれたい、賞味期限的な意味でも愛玩的な意味でも!」
「朝っぱらからうるさいぞオレンジ。もう少し寝かせろ」
「貴様、二日連続で選ばれたからといえどその人をなめ腐った態度、無礼にもほどがあるぞ!そこへなおれC.C.、オレンジジュースを混ぜてやるわ!」
「初めから混ざっている」
隣あって並んでいるオレンジジュースと野菜ジュースは仲が悪い。というより一方的にオレンジジュースが突っかかっている。ここ三日の戦績は一勝二敗。アップルジュースがここ最近買い足しされていないため、この二人の一騎打ちが続いている。
野菜ジュース(緑)の精・C.C.は面倒くさそうに吐き捨てると再び寝に入る。精霊に睡眠など関係ないのだが、彼女はこういった人間じみた行為を好んだ。伊達に十数種類の野菜と果物がブレンドされていない。
軽くあしらわれたジェレミアは本体を揺すって怒りを露わにする。水の波打つ音が冷蔵庫内に響き渡る。しかしC.C.の反応が返ってくることはない。次第に虚しくなり、動きを止めた。なぜ私は無駄に体を揺すっているのか、なぜ私はオレンジジュースなのだろうか。主に飲まれぬ私の存在意義はあるのだろうか。
「なぁ……ルルーシュ様は今日こそ私を選んでくれるだろうか」
「……飽きてなければ選ぶだろうさ」
「私の賞味期限、そろそろ切れそうなんだ」
「……消費期限まではまだ間があるから大丈夫だろう」
「それではダメなのだ!」
突如上げられた声の大きさにC.C.は思わず本体が跳ねてしまった。すまないと言葉短く詫びると、ジェレミアは続けた。
「私は、ルルーシュ様にはいつも美味しい私を味わってもらいたいのだ……どんなに放っておかれても、朝にしか飲まれなくても、本当のところ私を飲んで貰ったときに少しでも美味しいと感じてくれればいいのだ。賞味期限が切れてしまうと味わいの保証がなくなってしまう、そんな不完全な状態でルルーシュ様に飲まれてしまったら……まずいと不快に思われて二度と買われなくなってしまったら、そうしたら私は二度とあの方とはお会いできないのだ。そんなことになるくらいだったらいっそ捨てて貰った方がマシだ。あのお方を煩わせることは何があっても避けなければならない」
C.C.は、貧乏性なあいつは賞味期限がきれても飲むと思うぞと胸中で漏らす。口に出すと長々とした反論が返ってくると確信している。本当に面倒な奴だ。ため息を一つつくと小刻みに本体を揺すり始めたオレンジの精に告げた。
「何故おまえが飲まれないのか、あいつの性格を含めてよくよく考えてみたらどうだ」
眉間に皺を寄せたジェレミアにC.Cは鼻を鳴らした。

*** *** ***

それからしばらくして、扉が開かれた。光が射し込んだと思ったら野菜ジュースが捕まれすぐに扉が閉まる。あっと言う間に闇に再度包まれ、また今日も選ばれなかったことをジェレミアは理解した。ここ三日で見れば零勝三敗になってしまった。
「ルルーシュ様、オレンジジュースはお嫌いになったのでしょうか」
その呟きを聞くものはいない。
Written by BAN 0830 09

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