AFのあとで

 そろそろ来るか、来るだろうな。フランスが浮かんだ問いを即座に打ち消した、まさにその時。
「コラァいるんだろ変態ヤロー!」
 けたたましくドアを蹴破りながら、ロマーノがフランス宅へとやってきた。読み通りだったことに内心ほくそ笑みながらも、大仰に驚いたフリをしてみせる。両手を広げたその仕草は胡散臭い以外の何者でもなく、つき合いの長いロマーノにもあっさりと見破られる。
 ロマーノの目が眇められ、険悪さが一層増す結果となったが、そういった彼の仕草がフランスには可愛らしくてたまらない。幼い頃の彼を知っている身としては、例えどんなに成長しようが悪態をつくのは児戯としか写らないのだ。それがまたロマーノの怒りに火を注ぎ、そしてフランスを喜ばせる。
 だからロマーノはこれだけが理由ではないが、フランスがあまり好きではなかった。接触をもてばこのように自分がからかわれて苛つくのは重々承知しているので出来る限り近づかないようにしている。しかし今日はそのポリシーを曲げてでも断固抗議しなければならないことがあるのだ。ロマーノは心を落ち着かせるために、静かに深呼吸をした。
「……そこの髭ヤロー、スペインのあれは一体どういう訳だ」
 きたきた。フランスは笑いをかみ殺そうとしたがうまくいかず、頬がピクピクとまるで痙攣しているようだった。彼の顔を直視すると堪忍袋の尾が持たないと悟ったロマーノは、顔を逸らして床に向ける。怒鳴らないように努めている彼に心の中でひやかしを送ると、とぼけた声をあげた。
「スペインのあれって一体なんのことかなー。お兄さんロマーノくんよりスペインのつきあいがずっと長いから、あれって言っても思い当たること沢山あるんだよネ」
 その言葉に憎々しげに顔を歪めるロマーノを見て、フランスの背筋に悦びが走る。ああ最高だ。気づかないうちに舌で下唇を舐めていた。こいつはいっちょ前に俺に嫉妬していやがる! あの小さかったロマーノが随分と大きくなったもんだ!
「……そんなことはどうでもいいんだよ。エイプリルフールだからって、あんな、スペインの服を脱がせるなんて、よくもそんな嘘、つきやがって」
「ウソ〜? ウソなもんか! 実際あいつが脱いだら超常現象は収まったじゃないか。スペインのヌードのおかげで世界は平和でめでたしめでたし。何か悪いことでも?」
 その煽る言い方にロマーノが眦を吊り上げ、真正面からフランスをギッと睨みつける。その瞳の奥の嫉妬が透けて見え、なんでこいつこんなにわかりやすいのにスペインは「あいつの考えてることようわからんねん……」なんて愚痴るのだろうか。フランスはなんだかロマーノに同情してしまう。今回の件で二人の仲が多少なりとも進展すればいいと彼は願ってはいたが、ロマーノはスペインに好意を素直に出せず、スペインは隠された好意になど気づくわけがないのだということも悟ってはいた。しかしいつかはイレギュラーが起きるのでは、と期待していたが、今回もまたダメそうな気がする。そんな事情を知る由もなく急にフランスから同情的な視線を送られ、ロマーノは更に苛立った。
 数時間後、フランスに呼ばれてロマーノを迎えにきたスペインはフランスにいきり立っているロマーノを宥めるのに必死で、彼が何のためにここに来たのか、何故怒っているのかという理由には思い至らなかった。
Written by BAN 0818 09 改題 1114 09

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